社会保険料の削減方法

■社会保険料の削減の背景 

社会保険料の事業主負担分は、直接人件費額(給与及び賞与)の約13.6%(平成18年4月1日現在)にも及びます。
少子高齢化を背景として、今後も引き上げが予定されており、将来、直接人件費額の約18%にもなるだろうと言われています。
既に、厚生年金保険料は、毎年9月に0.354%(労使折半)づつ引き上げられ、最終的には平成29年度に18.3%(労使折半)まで引き上げられることが決定されています。

年収500万円の従業員を50人雇っていたとしましょう(人件費2億5千万円)。
今後、賃上げが無くても現在約3,400万円(事業主負担分)の社会保険料は、10年後には、約4,500万円となり、何も対策を施さなければ、約1,100万円も事業主負担が増加します。
もちろん、賃上げ0円はありえないので、この社会保険料負担はもっと重くなると考えられます。

中小零細企業では、このよう社会保険料負担額は重過ぎます。企業存続を危うくするかも知れません。
そこで、社会保険の仕組み・適用除外等を考え、合法的な形で、この社会保険料負担額を削減する方法を説明していきます。

社会保険料は、「給付と負担」の考えに立っています。
従って、「負担」を減らすと原則としてそれに比例して「給付」も減ります。従って、社会保険料の削減対策を採るに当って、メリット・デメリットを良く比較検討し、従業員のモチベーションを下げないようにすることが大切です。
以下に説明します対策には、メリット・デメリットを必ず記載しますので、参考にして下さい。

1.「2ヶ月の有期雇用契約」を締結する。

「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者」は法律上健康保険・厚生年金保険の適用除外者とされています。これを利用して、人を採用する場合、まず「2ヶ月以内の有期雇用契約」を締結します。2ヶ月間の勤務態度・意欲等をみて「期間の定めのない雇用契約」を締結するかどうか判断します。2ヶ月間様子を見て、正社員として雇いたくないと判断すれば、2カ月未満であれば、解雇しても解雇予告も即時解雇の場合の解雇予告手当の支払いも必要ありません。但し、解雇には「客観的に合理的な理由があり、社会的に解雇が相当であること」が要求されますので、雇用契約期間満了で辞めてもらうことが賢明と思います。社会保険の適用除外者ですから、社会保険料の節約を図ることも出来ます。

【事例】
給与30万円の社員2人を「2ヶ月の有期雇用契約」社員として雇い入れる。

【対策前】
健康保険料         14,145円×2ヶ月×2人=56,580円
厚生年金保険料      21,432円×2ヶ月×2人=85,728円
                               合計 142,308円

【対策後】
健康保険及び厚生年金保険の適用除外者であるため、健康保険料、厚生年金保険料とも0円。

従って142,308円の節約を図ることが出来ます。


(
)保険料の節約は、企業負担分のみ計算しています。児童手当拠出金は除いています。(以下同じ)

【従業員のデメリット】
健康保険、厚生年金保険に2ヶ月間加入出来ません。国民健康保険、国民年金に加入しなけばなりません。

【人材採用上の問題点】
採用にあたって、一律に上記雇用形態を取ると、優秀な人材を確保するのに困るので、最初から正社員(試用期間1ヶ月)として採用する道も残しておいた方が良いでしょう。

【留意点】
2ヶ月の有期雇用契約を結んだ社員が全員正社員となるような会社の場合は、入社日から被保険者とみなされますので、注意が必要です

2、常勤役員を非常勤役員にする。

非常勤の役員(1週間に1〜2日程度出勤)は、健康保険、厚生年金保険の適用除外者となりますので、これを利用して社会保険料の節約を図ります。

【事例】
代表取締役(夫)の給与800,000円、取締役(妻)の給与200,000円のところ、夫の給与を915,000円、妻の給与を85,000円とし、妻を非常勤役員とする。

【対策前】
健康保険料        (37,249円+ 9,430円)×12ヶ月=560,148円
厚生年金保険料     (44,293円+14,288円)×12ヶ月=702,972円
                                   合計  1,263,120円

【対策後】
健康保険料                  43,850円×12ヶ月=526,200円
厚生年金保険料               44,293円×12ヶ月=531,516円
                                    合計 1,057,716円

 1,263,120円−1,057,716円=205,404円

 従って、205,404円の節約を図ることが出来ます。

【妻のメリット】
妻の年収は、85,000円×12ヶ月で、1,020,000円となり、所得税は免税となり、健康保険の被扶養者となり、国民年金の第3号被保険者となることができるので、国民年金の年間保険料13,860円×12ヶ月=166,320円(平成18年度価格)の節約となる。上記節約分と合計すると全体では、年間371,724円の節約となる。
更に妻が60歳に達した時点で、常勤から非常勤役員にすることが出来れば、妻は在職老齢年金による支給調整を受けることなく、要件を満たせば、特別支給の老齢厚生年金を全額支給することが出来ます。


【妻のデメリット】
妻は厚生年金保険の被保険者でなくなりますので、その分老齢厚生年金等の給付額が減ります。

3.退職日は月末にする。

健康保険では、退職日の翌日が資格の喪失日となります。また、健康保険料、厚生年金保険料は、喪失月の前月分まで徴収されます。この仕組みを利用し、社会保険料の節約を図ります。

【事例】
4月1日入社、同年6月30日に退職すると、資格喪失日が7月1日となり、喪失月は7月となりますので、4月分、5月分、6月分(3か月分)の保険料を支払わなければなりませんが、6月29日の退職とすると、資格喪失日は6月30日となり、喪失月は6月となりますので、4月分、5月分(2ヶ月分)の保険料を払えばすみます。月給は300,000円と想定します。

【対策前】
健康保険料          14,145円×3ヶ月=42,435円
厚生年金保険料       21,432円×3ヶ月=64,296円
                            合計 106,731円

【対策後】
健康保険料          14,145円×2ヶ月=28,290円
厚生年金保険料       21,432円×2ヶ月=42,864円
                           合計  71,154円

 106,731円−71,154円=35,577円

 退職者が10人出れば、概算で356,000円の節約を図ることが出来ます。

【退職者のメリット】
1か月分の保険料の節約となり、月給の手取額が増えます。

【退職者のデメリット】
老齢厚生年金等の給付が若干下がります。退職日の翌日から新しい会社に就職することが決まっていない場合は、退職月から国民年金・国民健康保険(要件を満たせば任意継続に加入することも可能)に加入することが必要です。国民年金で配偶者が第1号被保険者になる場合は、配偶者分(月額13,860円)も保険料を収める必要があります

4.休職期間は短くする。

長期欠勤であっても、雇用関係にある以上、社会保険料が発生します。私傷病の場合の休職期間は、就業規則で定めているのが普通ですが、新規に就業規則で休職期間を設定する場合、短く設定した方が社会保険料の節約を図ることが出来ます。中小企業の場合、必要最小限の人数で運営していますので、労務管理上も長期欠勤は企業運営に支障を生ずるため、休職期間は短くした方が良いと思います。

【事例】
就業規則上休職期間を1年間ではなく、6ヶ月間に設定する。休職者の月給を300,000円とする。

【対策前】
健康保険           14,145円×12ヶ月=169,740円
厚生年金保険料       21,432円×12ヶ月=257,184円
                            合計  426,924円
【対策後】
健康保険            14,145円×6ヶ月=  84,870円
厚生年金保険料        21,432円×6ヶ月= 128,592円
                             合計 213,462円

  426,924円−213,462円=213,462円

  従って、213,462円の節約を図ることが出来ます。

【注意】
・既に就業規則で、休職期間を1年間にしている場合、6ヶ月間に変更するのは、労働条件の不利益変更となりますので、合理的な理由がない限り認められません。新規に子会社を設立する時に考えると良いでしょう。

・休職期間を勤続年数5年以下は2ヶ月、5年を越え20年以下は4ヶ月、20年超は6ヶ月と勤続年数に応じて定めても良いでしょう。

・さらに、企業にとって必要な人材で、休職期間を1年間にしたい場合は、就業規則上「ただし、会社の都合により、休職期間を1年まで延長を認める場合もある」とすれば良いでしょう。

5.4月〜6月の残業代を減らす。

社会保険料の保険料は毎年4月〜6月の給与(残業代も含む)で決定され、その金額が原則として1年間適用されます。従って、この間出来るだけ残業しないことが、社会保険料の節約に繋がります。社員にもこの仕組みを説明し、自己の社会保険料の負担が減少し、手取額を増やすことが出来ることを話せば、協力を得やすいと思います。
なお、保険料は4月〜6月の支払給与をもとにしますが、給与の締切日の関係でこの間の残業代が3月分から5月分が加算される会社と4月分から6月分が加算される会社があります。4月〜6月に支給される月の残業時間数を減らすのがポイントです。

【対策前】
4月〜6月の残業を通常と同じペースで行い、月給(残業代を除く30万円、残業代が毎月4万円発生した。

健康保険料          16,031円×12ヶ月=192,372円
厚生年金保険料       24,290円×12ヶ月=291,480円
                             合計 483,852円

【対策後】
4月〜6月の残業を極力減らし、月給(残業代を除く)30万円、残業代が毎月5千円発生した。

健康保険料          14,145円×12ヶ月=169,740円
厚生年金保険料       21,432円×12ヶ月=257,184円
                             合計 426,924円

 483,852円−426,924円=56,928円

従って、該当者が10人いれば、年間約57万円の節約を図ることが出来ます。

【従業員のメリット】
保険料が低く抑えられますので、月給の手取額が増加します。

【従業員のデメリット】
老齢厚生年金等の給付が若干下がります。

【留意事項】
固定給(基本給、役職手当、家族手当、通勤手当等)が上がり、残業が多いと保険料が期の途中で上がる可能性がありますので、固定給は期の途中で引上げないようにすることが大切です。

6.定期昇給の時期を4月から7月に変更する。

健康保険料、厚生年金保険料は、4月〜6月の平均給与で決定されます。従って、4月に定期昇給するのではなく、7月に定期昇給するようにすれば、標準報酬等級が昇給により上がる従業員の場合、9月から翌年の8月までの1年間その差額分だけ社会保険料を節約することが出来ます。

【事例】 
月給305,000円(標準報酬月額300,000円)の従業員の月給を定期昇給により、315,000円(標準報酬月額320,000円)に引上げるが、昇給時期を4月から7月に変更する。

【対策前】
健康保険料             15,088円×12ヶ月=181,056円
厚生年金保険料       22,861円×12ヶ月=274,332円
                              合計  455,388円

【対策後】
健康保険料          14,145円×12ヶ月=169,740円
厚生年金保険料       21,432円×12ヶ月=257,184円
                            合計  426,924円

 455,388円―426,924円=28,464円

 従って、この水準の従業員が10名いるとすると、1年間で約28万円節約出来ます。

【従業員のメリット】
給与の手取額が増加します。

【従業員のデメリット】
老齢厚生年金・傷病手当金の給付額が若干下がります。

【留意事項】

就業規則の昇給時期を変更し、従業員の同意を得るとともに、労働基準監督署に変更届を提出する必要があります。

7.個人事業を活用する。

オーナー企業で株式会社等法人会社を経営している場合、製造部門と販売部門を分離し、製造部門は個人事業、販売部門は法人会社として会社を分割して、役員報酬を法人会社と個人事業から受取るようにします。対策前後で報酬は同額とし、法人会社からの受取額を減額し、個人事業からの報酬金額を受領すると社会保険料を節約することが出来ます。個人事業の事業主は、社会保険の適用除外者となっています。 

【事例】
個人事業を設立し、従来法人会社から受取っていた役員報酬80万円を、法人会社から20万円、個人事業から60万円受取ることとする。

【対策前】
健康保険料            37,249円×12ヶ月=446,988円
厚生年金保険料         44,293円×12ヶ月=531,516円
                              合計  978,504円

【対策後】
健康保険料              9,430円×12ヶ月=113,160円 
厚生年金保険料         14,288円×12ヶ月=171,456円
                              合計  284,616円

 978,504円―284,616円=693,888円

 従って、693,888円の節約を図ることが出来ます。

【役員のメリット】 
報酬の手取額が増加します。

【役員のデメリット】 
老齢厚生年金等の給付額が低下します。傷病手当金の給付額が減額されます。民間の損害保険会社が扱っている「所得保障保険」に節約出来た社会保険料の一部から掛金を負担して、病気・負傷よる休業損害に備える必要があります。

【移行適正時期】
役員が60歳になった時点で上記対策を実施すると、在職老齢年金の支給停止額が減額されますので、対策を取らない場合と比較して多くの在職老齢年金を受給することが出来ます。

8.高齢役員の報酬を引下げる

65歳以降の高齢役員の報酬を減額し、平成17年4月改正の在職老齢年金計算方法を上手に利用し、社会保険料、人件費を節約しながら、役員の手取額は減額前を若干下回る額を確保する方法です。赤字の会社の場合、赤字額を減少させるのに有効です。

【事例】
65歳の役員の報酬月額60万円を38万円に減額する。なお、老齢基礎年金78万円、老齢厚生年金120万円の支給対象者とします。

【対策前】
健康保険料          27,819円×12ヶ月=333,828円
厚生年金保険料       44,293円×12ヶ月=531,516円
                           合計    865,344円

【対策後】
健康保険料           17,917円×12ヶ月=215,004円
厚生年金保険料       27,147円×12ヶ月=325,764円
                           合計   540,768円

従って、865,344円−540,768円=324,576円の節約を図ることが出来ます。

明 細

対策前
報酬月額60万円

対策後
報酬月額38万円

差 額

役員報酬(年額)

7,200,000

4,560,000

2,640,000

老齢基礎年金 7800,000 780,000 0

老齢厚生年金

0

1,200,000

1,200,000

収入合計 7,980,000 6,540,000 1,440,000

社会保険料

865,344

540,768

324,576

所得税(概算)

409,000

257,900

151,100

住民税(概算)

139,500

78,000

61,500

控除額合計

1,413,844

876,668

537,176

手取収入額

6,566,156

5,663,332

902,824

会社負担額

8,065,344

5,100,768

2,964,576

トータルで見ると、会社負担額は、2,964,576円(36.8%)減少させることが出来ます。一方本人手取額は902,824円(13.7%)減少に止まります

★ 「逓増定期保険」を活用し、会社負担は低額で、役員の65歳から70歳の減額された報酬を全額カバーする方法があります。

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